テスラとスペースXで、彼が口癖のように繰り返している「ものづくりの順番」。
大事なのは5つのステップそのものより、その順番。賢い人ほど、これを逆にやってしまう。
テスラの工場に、ある複雑な機械があった。バッテリーパックにガラス繊維のマットを貼りつけるための工程だ。長い時間をかけて丁寧に設計され、自動化までされていた。
そこへマスクが現れて、たった一つ質問をする。
答えは「火災対策です。それが要求仕様ですから」。ところが実際にテストしてみると——マットは火災対策にほとんど役立っていなかった。誰も疑わなかった「要求仕様」だっただけ。
マスクは、その工程をまるごと削除した。時間も、お金も、複雑さも消えた。丁寧に自動化されていたその工程は、そもそも存在すべきではなかったのだ。
順に進むのが鉄則。①②を飛ばして③④⑤から始めてはいけない。
優秀な人ほど、不要な仕組みを上手に最適化できてしまう。自動化までできてしまう。だから気づけない。本当に問うべきは「どう改善するか」ではなく、「そもそも必要なのか」だ。
特に賢い人から出てきた要求こそ疑え、とマスクは言う。賢い人の言うことは「ちゃんと考えた上だろう」と、みんなが勝手に納得して疑わなくなるからだ。
Model 3のバッテリーには、あるセンサーが「最初からずっとあったから」という理由だけで付いていた。辿ると、必要としていた元エンジニアは何年も前に退職済み。問題はもう存在しなかった。外しても、何も壊れなかった。
ルールは「明らかに不要なものを削る」ではない。「削除できるものは全部削る。そして何が壊れるか見る。本当に必要なものだけ後から足し戻す」。
スペースXのラプターエンジンは、この考えで部品を次々に削り、機能を統合し、システムごと消した。テスラの自動運転では、業界の常識だったレーダーすら丸ごと削除。「人間は目だけで運転している。カメラだけでいけるはず」と。
必要に見えるものを削除しなければ、何が本当に必要なのかは永遠にわからない。
これが3番目に来るのが肝。多くの人はここから始めてしまう。でもそれは「本来は不要なもの」を効率化しているだけかもしれない。
マスク自身、Model Xのファルコンウイング・ドアのような複雑な機能は間違いだったと認めている。どれだけ最適化しても、不要な複雑さは不要な複雑さのままだ。
スペースXが試作とテストを驚異的な速さで回すのは有名だ。ただし、ここでも順番が効く。
間違った方向に進んでいるなら、スピードは間違いを加速するだけ。まず正しい問題設定。高速化はその後。
多くの企業が真っ先に手を付けたがる部分。でもマスクは最後にすべきだと言う。自動化すると、工程が固定化されてしまうからだ。
実際、テスラはModel 3で過剰な自動化に失敗し、多くの作業を人間に戻した。マスク自身が「人間は過小評価されていた」と認めたほどだ。
「不要なものを削り、どうしても必要なものだけを磨く」と何が起きるか。スペースXのロケットエンジン「ラプター」の進化が、それを一目で物語る。
優秀な人ほど、不要な仕組みを上手に最適化し、自動化してしまう。
本当に効くのは、その手前で立ち止まる一つの問いだ。