ELON MUSK'S ALGORITHM

イーロン・マスクの
5ステップ・アルゴリズム

テスラとスペースXで、彼が口癖のように繰り返している「ものづくりの順番」。
大事なのは5つのステップそのものより、その順番。賢い人ほど、これを逆にやってしまう。

工場でのひとこと 5つの順番 ★ 順番が命 削除という快感 賢い人の罠
はじまりの工場

「なぜ、これが必要なの?」

テスラの工場に、ある複雑な機械があった。バッテリーパックにガラス繊維のマットを貼りつけるための工程だ。長い時間をかけて丁寧に設計され、自動化までされていた。

そこへマスクが現れて、たった一つ質問をする。

「なぜ、このマットが必要なの?」

答えは「火災対策です。それが要求仕様ですから」。ところが実際にテストしてみると——マットは火災対策にほとんど役立っていなかった。誰も疑わなかった「要求仕様」だっただけ。

マスクは、その工程をまるごと削除した。時間も、お金も、複雑さも消えた。丁寧に自動化されていたその工程は、そもそも存在すべきではなかったのだ。

POINT これは一度きりの話ではない。ウォルター・アイザックソンの伝記に出てくる「5ステップのアルゴリズム」を、マスクは現場で何度も唱えている。
全体像

5つのステップ

順に進むのが鉄則。①②を飛ばして③④⑤から始めてはいけない。

1 要求仕様を疑う 「本当にそれ必要?」を全部に問う 2 削除する 減らせる部品・工程は全部消す 3 シンプルにして最適化 残ったものだけを磨く 4 サイクルタイムを速く 一周にかかる時間を縮める 5 自動化する 最後の最後にやる
なぜ順番なのか 多くの人は、いきなり⑤(自動化)や③(最適化)から始める。でも①②を先にやっていなければ、「そもそも存在すべきでないもの」を最適化したり自動化したりしているだけ
★ いちばん刺さる言葉

賢いエンジニアが犯す
最大のミス

「賢いエンジニアが犯す最もよくある間違いは、存在すべきでないものを最適化することだ」 — イーロン・マスク

優秀な人ほど、不要な仕組みを上手に最適化できてしまう。自動化までできてしまう。だから気づけない。本当に問うべきは「どう改善するか」ではなく、「そもそも必要なのか」だ。

一つずつ

5つのステップ、その中身

1

すべての要求仕様を疑う

QUESTION EVERY REQUIREMENT

特に賢い人から出てきた要求こそ疑え、とマスクは言う。賢い人の言うことは「ちゃんと考えた上だろう」と、みんなが勝手に納得して疑わなくなるからだ。

ルール: すべての要求には「決めた人の名前」を添えること。「○○部門の要求です」は決して受け入れない。部門は自分を弁護しないが、個人なら責任を負う。

Model 3のバッテリーには、あるセンサーが「最初からずっとあったから」という理由だけで付いていた。辿ると、必要としていた元エンジニアは何年も前に退職済み。問題はもう存在しなかった。外しても、何も壊れなかった。

2

削除する

DELETE — 彼が一番好きな工程

ルールは「明らかに不要なものを削る」ではない。「削除できるものは全部削る。そして何が壊れるか見る。本当に必要なものだけ後から足し戻す」

10%ルール: 削ったもののうち最低10%を足し戻していないなら、削除が足りない証拠だ。

スペースXのラプターエンジンは、この考えで部品を次々に削り、機能を統合し、システムごと消した。テスラの自動運転では、業界の常識だったレーダーすら丸ごと削除。「人間は目だけで運転している。カメラだけでいけるはず」と。

必要に見えるものを削除しなければ、何が本当に必要なのかは永遠にわからない。

3

シンプルにして最適化する

SIMPLIFY & OPTIMIZE

これが3番目に来るのが肝。多くの人はここから始めてしまう。でもそれは「本来は不要なもの」を効率化しているだけかもしれない。

マスク自身、Model Xのファルコンウイング・ドアのような複雑な機能は間違いだったと認めている。どれだけ最適化しても、不要な複雑さは不要な複雑さのままだ。

4

サイクルタイムを速くする

ACCELERATE CYCLE TIME

スペースXが試作とテストを驚異的な速さで回すのは有名だ。ただし、ここでも順番が効く。

間違った方向に進んでいるなら、スピードは間違いを加速するだけ。まず正しい問題設定。高速化はその後。

5

自動化する

AUTOMATE — 最後にやる

多くの企業が真っ先に手を付けたがる部分。でもマスクは最後にすべきだと言う。自動化すると、工程が固定化されてしまうからだ。

実際、テスラはModel 3で過剰な自動化に失敗し、多くの作業を人間に戻した。マスク自身が「人間は過小評価されていた」と認めたほどだ。

削ることの威力

ラプター・エンジンの進化

「不要なものを削り、どうしても必要なものだけを磨く」と何が起きるか。スペースXのロケットエンジン「ラプター」の進化が、それを一目で物語る。

BEFORE
配管・配線・部品が
ぎっしり絡み合う
AFTER
削り、統合し、
すっきり生まれ変わる
本質 同じ「必要な仕事」を、より少ない部品で。余計なものを削るとは、こういうことだ。
「どう改善するか」より
「そもそも必要か」を問い続ける。

優秀な人ほど、不要な仕組みを上手に最適化し、自動化してしまう。
本当に効くのは、その手前で立ち止まる一つの問いだ。